会社に配属されてほぼ一ヶ月が経った土曜日の休日に、二期生たちと奈良公園へ行きました。一期生と同じ近鉄西大寺駅から電車に乗って奈良駅まで行き、歩いて奈良公園を通って東大寺大仏殿と二月堂を見学するコースです。季節は7月になっていましたので、奈良特有の蒸し暑さが堪えます。
実は、一期生を11月入国にしたのには理由がありました。
大連は大陸性気候なので、夏の湿度も高くなく暑さも酷暑という感じではありません。11月に入国すれば、冬から春の間に生活環境に慣れるだろうから夏バテをしにくいだろうと思ったからです。二期生たちは、社会情勢などから半年の重複期間しか取れなかったために、5月の入国になってしまったわけです。
奈良駅から歩きながら話をしますが、無口な上にこの暑さですから更に無口になっています。セイの方は、ニコニコしていますが、相変わらず言葉の理解度が低く、話そうとする積極性がありません。
そうなのです。一期生と二期生の大きな違いは、話せなくても食らいついてくるような積極性なのです。リュウとジャンの場合、当時の日本語能力はジャンのほうが優れていました。しかし、リュウは物怖じをせず、間違っていようが正しかろうがとにかく私に話しかけていたのです。ジャンもつられて会話に入ってきます。しかも、彼が得意な分野である中国語や中国の習慣の話をしかけてきます。このように私を話に引きずり込んでくるような姿勢が二期生には無いことに気がつき、それが物足りないと感じていたのだとわかりました。
結果、型どおりに鹿さんと遊び大仏殿と二月堂を見学して帰るだけになってしまいました。
ただ、一つ考えていることがありましたから、チョウに歩きながら話します。
「君は31歳で四人の中では一番お兄さんです。しかし、リュウとジャンはあなたより先に会社に来ている先輩です。ですから、必ず仕事中は彼らを先輩としてみてください。」
チョウは珍しく少しだけ笑顔で「わかりました。大丈夫です」とだけ答えていました。