これは困ったことになったと私は感じていました。日本語の問題なら勉強をすればなんとかなります。しかし、旋盤の仕事なのに機械が怖いと仕事になりません。また、補助作業であっても機械は使います。まず、彼の機械に対する恐怖心を取り去るところからやらないといかんな。と帰宅する車の中で考えていました。
翌日、私は本社の技術指導員に相談しました。スゥの担当技術指導員に相談せず本社の技術指導員に相談した理由は、機械が怖いとい致命的な問題ですから、スゥは誰にも知られたくなかったはずです。それを私に話してくれたわけですから本当は秘密にして欲しいと思っているはずです。ただ、彼の機械に対する恐怖心を取り除く事は私には出来ません。ですから、直属の技術指導員ではなくまず本社の技術指導員に相談しました。もちろん、直属のご技術指導員もしっかりと対応してくれると思います。しかし、一期生から指導を経験している本社の技術指導員の方がこの問題を理解してくれやすいとも思いました。
すると、「うちの仕事で機械を使わない仕事なんて無いからなぁ。。」と言いつつも「それがわかって良かったわ。俺が旋盤を教えてみるわ。何とかなるやろ」と言ってくれました。当社の社員は本当に優しくて親切な人ばかりです。
次の日、もう一つ確かめておきたいことがあって、再び同じ問題をしてみると、ルゥが55問中54問正解、スゥは55問中52問正解でした。そして、更に翌日同じ問題をしてみると、二人とも55問正解でした。”すぐに忘れます”ということも誤った理解であると確認できました。もし、すぐに忘れますということであるならば、この結果はありえないと思います。”忘れやすいのではない”ということは、彼自身の生活や仕事に対する習慣、考え方を変えていくことが必要になります。果たして三年間という限られた時間の中で、この問題を解決できるのか、私自身不安になっていました。とにかく一つ一つクリアしていくしなかいか。。。と試験の採点をしながら腹をくくった私です。
日本語学習を始めた初日の話ですが、間違えたところの解説が終わった後、雑談の中でスゥの服装を見ると、何だか汚れています。
”スゥ、その服はいつ着替えましたか?”と聞いてみましたら、
「昨日の前」と言います。
”昨日の前はおとついと言います”と修正し、”スゥ 服は毎日着替えましょう。清潔な服を着ていないと、汚く見えますよ”と話し、習慣の話をしてみました。30分ほどの雑談の中で4回くらい同じ話をします。そして最後に、
”スゥ 清潔な服を着るのとと汚い服を着るのはどちらが良いですか?”と質問をすると、
「清潔の服です」
翌日、翌々日と日本語学習のために寮へ行きましたが、毎日違う服を着ていますので、”スゥ 天天(毎日)服を着替えていますね。とても良いです。清潔に見えますよ”と褒めると、満面の笑みを浮かべて喜んでいるのが良くわかりました。”この子は褒められた経験が少ないのだろう”と感じましたので、その日全問正解をしました彼を”よく頑張りました!毎日頑張ったら必ず良い結果がでるでしょ?100点はとても嬉しいですね!”と主にスゥを褒める感じで二人に話しました。
試験前、「3級難しいです。無理です」と言っていた二人ですが、100点を取った後は、「これは簡単です」と言いますので、”文法の問題は難しいですよ”と手綱を締めておきました。
次は文法の問題をやってみて今後の学習方法を固めていきたいと思っています。